個別指導型の塾で働くことが決まりました。僕が働く塾では決まったカリキュラムというのはなく、生徒本人(時には親も入って)と一緒に、予習中心なのか、復習中心なのか、苦手科目に注力するかなど方針を決めてから指導をしていきます。
僕が初めて受け持った生徒に森田くん(仮名)がいました。当時高校2年生。
もともと彼を指導していた講師の勤務時間・曜日が変わってしまい、僕が引き継ぐことになりました。講師から森田くんのこと、指導内容を確認。教室長も「彼は文系だから。しっかり指導して結果出して」と言っていました。
森田くんと初めて顔を合わせた際「実は理系に進もうと思って・・」と衝撃の告白を受けました。話を聞くと、彼も入塾当初は文系に進むと思っていたようですが、最近になって進路を考えるうちに、文系ではなく理系に進むことにしたようです。あわてて教室長に森田くんは文系ではなく理系を希望していることを伝えると、教室長は「今理系の講師が足りないんだよ。君、何とか数学ⅢCを教科書レベルでいいから教えられない?」と高圧的に言われ、バイトを始めたばかりで断りにくい雰囲気もあり、元々理系頭だったので教えられないことは無いと思い「数学ⅢCを教科書レベルまでなら何とか教えます」と引き受けました。次の日、僕は梅田の紀伊国屋で数学ⅢCの参考書を買って、その日から独学で勉強して、日々森田くんに教えていました。
塾というのは生徒のやる気が大切ですが、個別指導では講師と生徒の相性も馬鹿にできないと思います。僕と森田くんは相性が良かったこと、彼自身もすごく理解が早かったことが重なり、彼は数学をはじめ、どんどん点数が上がっていきました。秋には理系講師のバイトが入りましたが、教室長から「二人相性いいから、この調子で高3までは指導して」と言われ、春まで森田くんを指導しました。
高3になったらさすがに教科書レベルの指導ではいけないので、理系講師にバトンタッチ。彼は京都工芸繊維大学を志望し、必死に勉強していました。
冬休みのセンター試験対策授業で、再び森田くんを指導することになりました。センター対策から数日後、教室長から「森田くん本人から、センター対策は君にやってもらいたいと指名があった」と言われました。森田くんの想いを無駄にしないよう、僕も出来る限りのことをやりました。
そして、彼は現役で京都工業繊維大学に合格。自分が合格した以上にうれしかったです。